大判例

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最高裁判所第二小法廷 平成2年(行ツ)24号 判決 1990年6月22日

静岡県小笠郡菊川町西方五八番地

上告人

落合刃物工業株式会社

右代表者代表取締役

落合錬作

静岡県榛原郡金谷町金谷河原三四七番地の八

被上告人

カワサキ機工株式会社

右代表者代表取締役

川崎尚一

右当事者間の東京高等裁判所昭和六二年(行ケ)第三〇号審決取消請求事件について、同裁判所が平成元年一〇月三一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 藤島昭 裁判官 奥野久之 裁判官 中島敏次郎)

(平成二年(行ツ)第二四号 上告人 落合刃物工業株式会社)

上告人の上告理由

原判決は、次に述べるとおり、判決に影響を及ぼすことが明らかな経験法則(当業者の技術常識)に違背の違法がある。

一、原審の経緯

1、上告人は、昭和六〇年六月一一日に被上告人が有する登録第一五四三三八五号実用新案(実公昭五八-三一四七九号公報・以下本件考案という)の登録無効の審判を、昭和六〇年審判第一一七七七号として請求したところ、昭和六一年一一月二七日「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決がなされた。

2、そこで上告人は、昭和六二年二月二三日に右審決を不服として前記審判の審決取消訴訟を、東京高等裁判所に昭和六二年(行ケ)第三〇号として係属したところ、平成元年十月三一日に「原告の請求を棄却する。」との判決が言渡され、平成元年十一月八日に同判決の正本の送達を受けた。

二、原判決の理由の要点

原判決の理由の要点は、次のとおりである。

まず本件考案の要旨を、

1、前方突出部6を形成した一側板1と他側板1および底板4と上板5とで前後を開口した機筺を構成し、該機筺の一側板1辺りに原動機2、ファン3を搭載し、上記側板の前方突出部6・6間には多数の吐出小管10を設けた風胴7を架設し、底板4前方縁には刈刃8を沿設すると共に、前記側板1の前部には該刈刃8が露見する切欠部13を形成し、機筺両側には把手11・11を、又後方には収容袋12を着脱自在に装着してなる、

二人用動力茶葉摘採機

であると認定し、

2、本件考案の作用効果については、

(一)、甲第二号証(本件実用新案公報)によれば、「従来のこの種の摘採機にあっては、第2図に示されたように、機筺の側板bが風胴cを架設するために前方に著しく突出しており、底板d前辺に沿って位置する刈刃eは、横方向からは見えず、したがって、把手を持った作業者は矢印ハの視線になるまで作業姿勢を崩さざるを得なくなるが(矢印口の位置が自然な体勢での視線の位置)、この姿勢は、第3図に示されたように、中腰で進行後ろ向きであり、しかも相当後ろ倒しの姿勢であって、上腕は機体を持ち上げるような、極めて危険、苦痛な姿勢を強いられるものであったこと(二欄九行ないし二一行)、並びに本件考案は右のような従来からの二人用動力茶葉摘採機のもつ欠点を解消すべく少なくとも動力部を搭載する側の側板に刈刃が露見する切欠部を形成することによって、自然な姿勢のうちに、良好な摘採作業ができるようにしたものであること(二欄二十二行ないし二五行)」、及び本件考案の構成全体における「切欠部の形成」の構成の採択により、「刈刃のほぼ全面を自然の姿勢で監視できるようにして、畝上面の頂辺に段差を残すことなく一様な摘採作業ができる効果」を奏することが認められる、との判断を示しながら、

(二)、他方では、

「切欠部を通して常に刈刃のほぼ全面を監視することが必ずしも要求されることとはいえず、自然な姿勢で、復路時において切欠部から刈込境と刈刃を監視できれば本件考案の目的とするところは達成されるものであると認められる」としたうえ、「切欠部を通して監視できる範囲について、作業者が自然な姿勢で監視できるのは、茶葉摘採作業の復路時だけで、しかも、畝上面の頂辺から手前に突出させたほぼ一側端部にすぎず、『常に刈刃のほぼ全面』が監視できるものではない」とする原告主張について、「仮に原告の主張する程度であるとしても、これによって本件考案の主要な目的は達成されるものと認められる」と判示した。

3、そして、取消事由1に対しては、「第一引用例、第三引用例、第四引用例および第五引用例の各構成には、本件考案における『切欠部の形成』を示唆する記述はなく、さらに第三引用例、第四引用例により一人用動力摘採機において、作業者が自然の姿勢で刈刃を監視して茶葉を良好に摘採するという課題が公知であるとしても、これと前記第一引用例を合わせても、前記『切欠部の形成』の構成をきわめて容易に想到することができない」とし、

4、また取消事由2に対しては、「第一引用例の第三図をみても、バリカン式摘取体と側板との関係が、本件考案におけるように、刈刃と畝上面との適合具合を監視しながら摘採を行うことができるようになっているものと判断できない以上、本件考案と第一引用例に記載のものとの間には、効果上格別の相違があるものとみざるを得ない。

として、取消事由1、2を共に理由がない」ものと判断した。

上告の論拠

しかしながら、前記取消事由2に対する理由には、判断に影響を及ぼすことの明らかな経験法則(当業者の技術常識)の違背の違法がある。

三、従来(第一引用例の出願前)より周知の二人用動力茶葉摘採機による茶葉の標準的な摘採作業

「標記の摘採作業」は、一番茶の例をとれば、次のとおりである。

1、毎年三月、予め畝上面を全体として凹凸のない滑らかな表面を形成するように刈りならし、これを基準畝上面とする。

2、前記の基準畝上面を形成する茶樹から新しい芯葉が適当な長さ伸長すると、二人の作業者は、それぞれ二人用動力茶葉摘採機の把手を手にして畝を挾んで相対し、茶畝の高さ・畝面形状に合わせてそれぞれの側の把手の位置を調整する。

3、次いで、刈刃の位置決めをするために、〇・五~一・〇米程度の畝長さの試し刈りをして元の位置に戻り、熟練作業者である裾側作業者が、試し刈りの刈込み深さが適切であったかどうか、すなわち、刈取り面が前記三月に形成した基準畝上面の直上に位置して摘採され、摘採された芯葉中に基準畝上面の下部の茎などが混入して茶葉の品質を低下していないかどうかを確認して、原動機側作業者に対して畝頂辺部の刈込み深さ・位置などを助言し、両者の刈込み位置を確定したうえ往路時の摘採作業を開始する。

4、このようにして、例えば一〇〇米にも及ぶ長さの茶畝の畝上面の片側半分の摘採作業を終了すると、残り半分の畝上面の摘採作業を行うことになるが、その際畝上面の頂辺に段差が残らないと共に刈り残しがないようにするため、刈刃の一側端部を往路時に既に刈取られている畝上面の頂辺より原動機作業者側に突出させて、当該作業者がこの一側端部の上下方向位置を一側板の基準畝上面に対する上下位置で確認しながら該畝上面の頂辺に沿ってその直上を歩行により移動すると共に、裾側作業者は、刈取られた残りの半分の畝上面が正常に刈取られているかどうかに注意しながら、復路時の摘採作業を行う(原審・原告準備書面((第二回))同((第五回))参照)。

従って、作業者が茶葉を良好に摘採するために往復路時において刈刃(刈刃の位置)を監視することが望ましいという課題は、従来より周知のことである。

5、摘採作業に際して、往路時密生する芯葉中に位置して前記基準畝上面の直上を移動するため作業者が全く見ることができない刈刃や、復路時において芯葉中に位置するため往路時と同様に見ることができない刈刃部分はともかく、芯葉が全くないところに位置している刈刃の前記一側端部を原動機側作業者が一側板面上の刈刃に対応する位置(通常側板の下端から三~四ミリ上方に刈刃が位置する)を確認しながら頂辺に沿って移動していたのを、自分の目で該頂辺上の一側端部附近の刈刃を直接監視して該頂辺がより段差の小さい滑らかな畝上面に形成されるよう摘採することは、当然のことで従来より周知の課題である。

四、第一引用例の第三図により開示されている刈刃の監視

1、ところで第三図を見ると、同図の側板は、原判決が認定しているように、裾側のものであって動力部搭載側のものではないが、刈刃と両側板との関連的配置は、刈刃の両側端部においては、両側板がその附近の芯葉を刈刃上に誘導保持することにより、刈刃の両側端部における摘採作業がほぼ同様に行われることが望ましいことなどから、第一引用例の二人用動力茶葉摘採機における動力部搭載側の側板と刈刃との関連的構成も、また第三図の裾側側板のそれと同様に左記のようになっていることは、当然である(別紙添付の参考資料((実開昭五〇-一〇一四六一号公報))第一図・第二図参照)。

底板の前方縁に沿設したバリカン式摘取体は、その後端部附近を横方向からみて後方斜下方に傾斜するよう形成した側板の前方辺の下端に位置させて側板下端から前方へ突出させる。

2、そして、この構成を前記三で述べた、復路時に畝上面の頂辺から往路時の刈取りによって芯葉が存在していない畝上面へ突出している刈刃の、前記一側端部附近の監視が当業者にとって従来周知の課題であることを前提にして見れば、前記1の「記」で述べた構成により、第一引用例には、原動機側作業者が自然の姿勢で刈刃の一側端部と畝上面との適合具合を監視しながら摘採が行うことができるようになっていることが、きわめて容易に理解できる。

そして、このことは、

(一)、側板の前方辺によって芯葉を該摘取体a上へと誘導し、かつ摘採時芯葉が外側方へ傾動しないように支持するいわゆる葉寄せ機能を充分に持たせることができなくなること。

(二)、また、往路時において、該摘取体a両側端部の外側に向う刃で畝上面の頂辺側の芯葉を損傷し、復路時において、この損傷した芯葉を剪断収穫することとなり、従って、全体の茶質を低下すること。

(三)、しかも、該摘取体a全体が、側板の前方辺下端部から前方にむき出し状態になっているため、摘取体aの両側方にある障害物に直接接触して損傷を受け易い。

などのきわめて不利な問題点を有することが自明であるにも拘らず、第一引用例においては、これらの点につき敢えてこのような不利な前記1の「記」の構成にしたという事実からも裏付けられる(原審・原告準備書面((第五回))・一七頁一四行~一八頁一二行)。

以上述べるところから、結局第一引用例は、本件考案の作用効果に関する原判決の説示するところに従えば、畝上面に段差を残すことがないなど、本件考案とほぼ同一の効果を奏するものと認めることができる。

五、結語

本件考案と第一引用例とは、結局共に刈刃を基準畝上面との適合具合を監視しながら摘採を行うことができるようになっているから、本件考案の作用効果に関して原判決が説示するところに従えば、これらの間には効果上格別の相違はなく、従ってこれに反する原判決の取消事由2に対する判断は、当業者の技術常識に関する経験法則に違背した違法のものである。従って、原判決は、破棄されるべきものである。

参考資料…実開昭五〇-一〇一四六一号

以上

< >日本国特許庁

< >Int.Cl2. A 01 D /04 < >日本分類 2 D 4 公開実用新案公報 <11>実開昭50-101461

庁内整理番号 7316-21 <13>公開 昭50(1975).8.22

査請求 有

< >   にむける  吹上け装置

< >実願 昭49-12816

< >出願 昭49(1974)1月29日

< >考案者 落合信平

静岡県小笠郡菊川町湖海寺38

同 落合英二

静岡県小笠郡菊川町本所361の1

同 官毛秀夫

静岡県小笠郡菊川町湖海寺48の1

同 清水寛

狛江市覚東66の16

<71>出願人 落合刃物工業株式会社

静岡県小笠郡菊川町湖海寺38

<74>代理人 弁理士 官武文一

< >実用新案  請求の範囲

前後を開口する  1の底板前端にバリカン式摘取体aを装設しその斜め前上方には排気口8が摘取体a上に向う排風管7を設けて  1の 端開口に  収集袋17を取付ける   において、 取体aの後方に後部が斜め後ろ上方へ見 6’した  板6を装設してなる  吹上げ装置。

図面の簡単な説明

第1図は本考案を実施した2人用某  の斜面図、第2図は 所面図、第3図はその誘導板の斜面図である。

a……バリカン式摘取体、1……接管、6……誘導板、6’……  、7……排風管、8……排気口、17……  収集袋。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

実用新案公報

<省略>

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